腸管バリア機能障害に特に注目した迷走神経刺激の抗炎症作用
腸管バリアの役割と破綻2025
腸管バリアは、腸内に存在する微生物、食物抗原、有害物質(毒素)などから体内(宿主)を保護する重要な構造です。
このバリア機能が破綻した状態は「リーキーガット(leaky gut)」と呼ばれ、微生物由来の成分が血中に移行し、全身性の慢性的な軽度炎症を引き起こすと考えられています。
近年では、腸セラピーがこの腸管バリア機能の回復・修復・維持に有効な介入手段となる可能性が注目されています。
タイトジャンクション(TJ)と腸バリア構造
腸上皮細胞は、「タイトジャンクション(TJ)」という構造により互いに密着し、バリア機能を形成しています。
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オクルージンおよびクローディンファミリーは、TJを構成する主要な膜タンパク質です。
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これらは、ゾヌラオクルーデンス(ZO)タンパク質と結合し、アクチン・ミオシン収縮系と連携することで、バリアの強度を維持しています。
腸管バリアの異常(摂動)は、以下のような消化器疾患で確認されています:
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過敏性腸症候群(IBS)
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炎症性腸疾患(IBD)
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セリアック病
迷走神経と腸管バリア調節
迷走神経の役割
迷走神経(Vagus Nerve, VN)は、消化管を含む広範な臓器に分布する人体で最も長い脳神経であり、腸脳軸の中核的構成要素です。
迷走神経は以下の2つの経路を介して、抗炎症作用を発揮します:
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求心性経路(HPA軸活性化)
視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸を活性化し、副腎からグルココルチコイド(抗炎症ホルモン)を放出します。 -
遠心性経路(コリン作動性抗炎症経路:CAP)
脳幹からの信号が**アセチルコリン(ACh)**を放出し、免疫細胞を介して炎症を抑制します。
コリン作動性抗炎症経路(CAP)のメカニズム
この経路は、2000年にTraceyらによって初めて報告されました。
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AChは**α7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)**を介して、マクロファージからのTNF-α放出を阻害し、炎症を抑えます。
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腸内では、迷走神経刺激は直接マクロファージを抑制するのではなく、nNOS-VIP-AChを発現する腸内ニューロンを介して間接的に調節します。
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この結果、腸内の在筋常在マクロファージがCAPの最終的な標的となります。
迷走神経と脾臓・交感神経の関係
迷走神経は、脾臓の交感神経経路とも連携しています。
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ノルエピネフリン(NE)が脾臓Tリンパ球のβ2受容体に結合すると、T細胞はAChを放出。
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そのAChが、脾臓マクロファージのα7nAChRを刺激してTNF-αの放出を抑制します。
また、大内臓神経など他の交感神経経路も、炎症の制御に関与しています。
ストレスと腸バリア機能
ストレスは、迷走神経の活動を抑制しつつ、交感神経系を活性化させることで、炎症を誘発します。
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**心理的ストレスによって分泌されるCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出因子)**は、腸粘膜の耐性(エンドトキシン耐性)を破壊。
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その結果、腸の透過性が増し、炎症やIBS・IBDの悪化につながる可能性があります。
Zhangらの研究では、脾臓神経がCRHを発現する扁桃体中枢核や視床下部の神経とつながっており、迷走神経・交感神経・免疫系が密接に連携していることが示されています。
結論
腸管バリアの維持は、健康を支える重要な要素であり、**迷走神経とその神経免疫経路(CAP)**は、その調節において極めて重要な役割を果たします。
ストレス管理や腸セラピーなどの介入は、腸のバリア機能をサポートし、炎症性疾患の予防・改善に寄与する可能性があります
腸管バリア機能障害に特に注目した迷走神経刺激の抗炎症効果 – PMC